みなさん、こんにちは!今回はスバルのインプレッサクーペについてご紹介します。一言でインプレッサクーペと言っても、かつて販売されていたのは「リトナ」のサブネームが与えられたモデルと、世界ラリー選手権(WRC)参戦車両を彷彿とさせるような、迫力ある「WRX TypeR」の2つに大別されます。
特に後者の「WRX TypeR」については、スバルがWRCで大活躍していた時期の、ラリーカーの雰囲気をそのまま受け継いだデザインとなっていて、生産終了から20年が経とうとしている現在も非常に高い人気を維持しています。この記事では、インプレッサクーペの魅力をじっくりとご紹介していきます!
「リトナ」は販売不振で早々に販売終了
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スバルは、上級車種へ以降したレガシィの穴を埋めるため、新たにCセグメントのセダン、ステーションワゴン(スバル自身はスポーツセダンと呼称)を開発。特にヨーロッパに向けた世界戦略車として開発された新型車に「インプレッサ」と名付けました。初代レガシィに比べてコンパクトで軽量なボディを採用し、さらに全車両に前輪ベンチレーテッドディスクブレーキを装備。初代レガシィから引き継いだ水平対向4気筒エンジン「EJ」型を採用し、運動性能に関しての素質に恵まれたモデルとなっています。
スバルは、WRC参戦車両をレガシィからインプレッサに変更し、その後も第一線で戦い続けていくことになります。WRCのホモロゲーションモデルとして、最高性能を持つモデルには「WRX」のネーミングが与えられました。
初代インプレッサは、毎年のように細かい変更を加えていく、いわゆる「年次改良」システムを採用し、当時の国産小型車では珍しく8年にも渡ってフルモデルチェンジなしで生産が続けられました。また、特別仕様車を数多く投入することで、長年に渡って高い商品力の維持に成功しています。
初代インプレッサは、1992年にセダン、スポーツワゴン、セダンWRXの三本立てでデビュー。翌1993年には、スポーツワゴンWRXもデビューし、快速ステーションワゴンとして名を馳せます。インプレッサクーペは、それらに遅れて1995年1月にラインナップに加わります。もともと輸出仕様だった2ドアクーペを「リトナ」のサブネームを冠して発売。速さを追求したモデルではなく、気軽なパーソナルクーペという立ち位置のモデルでした。
エンジンは1.5リッターと1.6リッターの2種類で、1.5リッターモデルはFFでMTとATをラインナップ。1.6リッターモデルは4WDで、こちらもMTとATを設定していました。エンジンの出力は1.5リッターモデルが97ps、1.6リッターモデルでも100psと平凡で、価格も109.8万円〜163.1万円と低く抑えられています。
ところが、このリトナは販売不振で、1996年9月には早くも廃止。わずか1年8ヶ月の販売期間でラインナップから姿を消してしまいます。2019年10月現在の中古車市場では一台も出回っておらず、もし出回ることがあってもあまり高値が期待できない悲運の不人気車種となってしまいました。
インプレッサクーペの本命、WRX TypeR
リトナと入れ替わりで登場したのが、インプレッサWRXの2ドアクーペ版、「WRX TypeR STiバージョン」です。STI社、正式名称・スバルテクニカインターナショナル株式会社の手が入った渾身のスポーツモデルで、2リッターの水平対向4気筒インタークーラー付きターボエンジンの出力はついに国内自主規制枠の280psに到達。最大トルクも35kgmと非常に強力で、独自の四輪駆動システムと5速マニュアルトランスミッションが組み合わせられました。
WRX TypeR STiバージョンに採用されていた四輪駆動は、「DCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)」と機械式リアLSDを組み合わせたもの。シフトレバー横のダイヤルを操作することで、前後輪のトルク配分を任意で設定することが可能になっています。
1996年に登場したこの「WRX TypeR STiバージョン」は、厳密にはSTiバージョンⅢに当たり、後にSTiバージョンⅣ、V、最終的にはⅥまで進化を続けます。2000年に生産を終了するまで、ほぼ毎年のように改良が続けられていくのです。
1997年には早速STiバージョンⅣに移行。リアブレーキにも対向キャリパーが採用され、よりブレーキング性能が向上しました。1998年にはSTiバージョンⅤに進化し、新設計のシリンダーヘッドとシリンダーブロックが採用されたほか、補機類の見直しも行われています。サスペンションにも手が入れられ、カヤバ社製の倒立式ストラットが新たに採用。外観上ではヘッドライトがマルチリフレクタータイプに変更され、大型のリアスポイラーが標準装備となりました。
1999年9月に最後の一部改良が行われ、STiバージョンⅥが登場します。大型リアスポイラーの断面形状の見直しや、フロントアンダースポイラーを新たに追加するなど、最後まで細かい改良が続けられました。最高出力は280psと変わらないものの、トルクはさらに増し、最終的に36kgmを発生するに至りました。インプレッサWRX TypeR STiバージョン、型式名「GF-GC8」は、こうして約4年間生産され、カタログから姿を消すことになります。
別格の限定モデル、22B
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実は、上記で紹介した「GF-GC8」の中に、通常のラインナップとは別格扱いの限定生産車が存在します。その名も「インプレッサ22B-STiバージョン」。通称「22B」と呼ばれるこのクルマは、WRCで3連覇を達成した「インプレッサ・WRC ’97」をロードカーとしてできる限り再現したモデルとして登場しました。
1998年3月に登場し、販売価格はなんと500万円!当時のカタログモデル、WRXタイプR STiバージョンIVが299.9万円だったことを考えるとかなりの高額な価格設定でしたが、精緻な作り込みと専用装備だらけの22Bは大きな反響を呼び、わずか2日間で予定された400台を完売するほどの人気となります。ちなみに、販売から20年以上経った今でも人気は衰えることを知らず、1000万円前後の中古車価格で取引される、まさに「伝説の一台」となっています。
さて、この22B、一体どこが特別だったのでしょうか?まず一見して気付くのが、鋼板製の前後ブリスターフェンダー。特にリアのフェンダーに関しては、ホワイトボディ状態でリアクォーターパネルを切断し、その後にブリスターフェンダーを溶接するという、非常に手の込んだ作業が行われています。安易にプラスチック製のオーバーフェンダーを装着するのではなく、わざわざ溶接としたところに、当時のスバルの技術者たちのプライドをひしひしと感じますね。
このワイドボディ&ワイドドレッド化により、タイヤサイズも通常モデルの205/50R16よりさらに幅広・大径の235/40R17というサイズに拡大。当時のラリーでもパートナーだったピレリ社製の「P ZERO」が奢られています。
安定感を増した足回りに組み合わされたのが、セラミックメタル製のツインプレートクラッチと、22B専用の「EJ22改」エンジンです。排気量はボアアップにより2212ccまで拡大。低速トルクが薄いとされていたインプレッサの弱点を克服し、37kgmの最大トルクをわずか3200rpmで発生します。このエンジンはGC8系インプレッサでは最強ユニットと言っても過言ではなく、今でも多くのファンの憧れの的となっているのです。
メーカーの製造ラインから外され、WRCのレースカーのように、ハンドメイドで組まれたこのクルマの型式名称は「GF-GC8改」。まさに初代インプレッサの究極のモデルと言えるでしょう。
中古車市場での動向は?
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現在の中古車市場では、22Bはほとんど出回っておらず、2〜3台が流通していればまだよい方、といった状態です。価格についても1000万円以上で取引されることも珍しくなく、どうしても欲しい!という方は、大きな出費を覚悟するしかなさそうです。
一方で、WRX TypeRについては20台前後が流通しており、150万円〜200万円が相場、といったところでしょうか。クルマの性格上、ハードに走りこまれている個体が多いので、走行に関する部分のチェックは念入りに行った方がよいでしょう。
WRCで活躍していた頃を思い出させてくれるスバルの名車、インプレッサクーペ。生産終了から約20年が経ちますが、その輝きは衰えるどころか、ますます増してきているような印象すら受けます。今後もできるだけ多くの個体が元気に走り続けられたらいいですね。それでは、また次回の記事でお会いしましょう!
[ライター/守屋健]