みなさん、こんにちは!今回はかつてトヨタが生産していたコンパクトな2ドアクーペ、トヨタ・サイノスをご紹介します。小型のハッチバックやセダンのメカニズムを流用してコンパクトなスポーツクーペを作り上げる、という手法は、第二次世界大戦後のイギリスや日本、イタリアなどで一般的な手法でしたが、近年はほとんど見かけなくなってしまいました。現代のスポーツカーのほとんどは独自に開発されたシャシーやエンジンを持ち、一方で車両価格は跳ね上がってしまったため、「気軽に楽しめるスポーツクーペ」というのはほとんど絶滅してしまいました。
トヨタ・サイノスは、日本のバブル経済の末期に誕生した、まさに「気軽に、手軽に楽しめるスポーツクーペ」でした。かつては街中で見かけることも多かったサイノスですが、現在では中古車市場でもなかなか見かけない希少車となっています。今回はそんなサイノスの魅力について、改めて紹介していきたいと思います!
「セクレタリーカー」がコンセプト
出典:ウィキメディア
トヨタ・サイノスは、走りに徹したスポーツクーペというよりは、女性が運転しても似合う気軽なコンパクトスポーツとして開発されました。北米におけるターセル・2ドアクーペ(日本国内では未発売)の後継車として、カローラⅡ、ターセル、コルサ(いわゆるカローラⅡ3兄弟)のメカニズムを流用し、低価格な2ドアノッチバッククーペとして誕生します。
トヨタの当時のラインナップでは、カローラレビン、スプリンタートレノよりも安価、かつコンパクトな2ドアクーペとして、スポーツ志向のドライバーのエントリーモデルとしての役割を担いました。北米の「Secretary Car」と呼ばれる市場、つまり女性秘書などが運転するクルマをイメージして開発されたということもあり、際立った個性こそないものの、バランスの取れたシンプルなボディデザインが特徴です。
トヨタ・サイノスの命名は、「目標」「注目の的」などを意味する英語「cynosure」から作られた造語です。また「cynosure」には北極星という意味もあり、当時のトヨタの小型ハッチバック「スターレット」とも掛かった名付けになっています。ちなみにスターレットは英語で「starlet」、小さい星という意味で、どちらも星にちなんだ由来となっていました。
サイノスは海外では「パセオ(PASEO)」と呼ばれ、こちらはスペイン語で「散歩」を意味します。クルマの性格を考えると、こちらのネーミングもなかなか的を得ていると思いますが、みなさんはどう感じるでしょうか。
初代登場は1991年
トヨタ・サイノスの初代モデルが発売になったのは、1991年1月のことでした。生産を担ったのは、トヨタの高岡工場。グレード構成はシンプルに「α(アルファ)」と「β(ベータ)」の2種類のみです。αがベースグレードで、βは上級グレードとされ、エンジンや装備に違いがありました。「α」「β」ともに、「ケンタウルス座α星」という風に天文学でも使われることから、きちんと星にまつわるグレード名になっているのも興味深い点ですね。
αのエンジンは1.5リッター直列4気筒DOHC(型式名は5E-FE)で105psを発生。βのエンジン(型式名は5E-FEH)は排気量は同じながら、115psを発生する少しだけ強力なエンジンを搭載していました。また、βではオプション装備として、4輪ディスクブレーキや「TEMS」と呼ばれる電子制御サスペンションも用意。組み合わせられるトランスミッションは、4速オートマチックと5速マニュアルの2種類でした。
サイノスのサイズは、現代の水準からするとかなりコンパクトで、全長はわずか4,145mm、全幅1,645mm、全高1,295mmに収まっています。ホイールベースは2,380mmですが、後席が狭いながらもきちんと用意され、乗車定員は4人となっています。
エンジンも非力ではありますが、車両重量は870〜950kgと1トン以内に収まっていたため、思いの外軽快に走行することが可能でした。とはいえ、フロントエンジン・フロントドライブだったという理由から、硬派な走り好きからの支持を受けるようなことはなく、アフターパーツもあまり充実しませんでした。どちらかと言えば、積極的にいじり倒すより、フルノーマルのまま楽しむオーナーが多かったように記憶しています。
サイノスのベースとなったカローラⅡ、コルサ、ターセルのカローラⅡ3兄弟は1994年にフルモデルチェンジをするものの、サイノスはそのまま生産を継続。初代サイノスは結局1995年8月まで生産され、2代目モデルにバトンを渡すことになります。
キープコンセプトの2代目
トヨタ・サイノスの2代目モデルは、1995年8月から1999年8月まで生産されました。ボディタイプは先代モデルと同じ2ドアノッチバッククーペと、1996年追加された2ドアコンバーチブルの2種類がありました。
グレード構成はαとβで先代と変わりませんが、搭載されているエンジンはαが1.3リッター、1.5リッターと排気量が変わりました。1.3リッターエンジンは88ps、1.5リッターエンジンは110psをそれぞれ発生。クルマのサイズは全長4155mm、全幅1660mm、全高1295mmとほぼ変わらず、ホイールベース2380mmは不変。車両重量もあいかわらず1トン以内に収まっており、先代モデルと変わらぬ軽快な走りを披露しました。
トランスミッションの形式は、αが4速MTと3速AT、βが5速MTと4速ATと、なんと合計4種類も用意されていました。特に4速MTモデルについては、エアコン・パワステ・パワーウインドウが装備されているクルマの中では極めて安価な価格設定となっていたのが特徴です。先代サイノスに比べると、αとβの間の装備差が大きかったため、αのエンジンにβと同等の装備を搭載したα juno(アルファ・ジュノ)パッケージも用意されました。
手軽に楽しめる「コンバーチブル」
出典:ウィキメディア
この代のサイノスで特筆すべきなのは、やはりコンバーチブルモデルの存在でしょう。サイノスのコンバーチブルを加工を担当したのは、コンバーチブル化のスペシャリスト、アメリカのASC社でした。ASC社は他にも、トヨタ・セリカコンバーチブルの加工を手がけていたことで知られています。
コンバーチブル化の手順としては、まず日本国内でクーペのボディシェルに追加の補強を施し、アメリカのASC社に輸送。ASC社ではルーフやクォーターピラーの切断後、開閉機構やその他の艤装などを追加し、その後に日本へ送り返す、という非常に手の込んだ生産工程が行われていました。コンバーチブルには、デビュー記念の特別仕様車として、イエローが150台のみ生産されています。またコンバーチブル登場時に、クーペ版にもABSとデュアルエアバッグが標準装備化されました。
1997年には一度マイナーチェンジが行われています。このマイナーチェンジで、ヘッドライトはマルチリフレクターとなり、夜間の視界が改善されました。また、衝突安全ボディGOAを採用し、衝突安全性能を向上させました。GOA(ゴア)は、トヨタの衝突安全ボディの通称で、Global Outstanding Assessment(クラス世界トップレベルを追求している安全性評価)の頭文字から取られています。
1999年8月のサイノス生産終了時には、ベースとなったカローラⅡ、コルサ、ターセルのカローラⅡ3兄弟も同時に生産中止になりました。トヨタのエントリークラスはヴィッツ、その派生モデルのファンカーゴとプラッツが担っていくことになるのです。
今や国内流通極小の希少車
トヨタ・サイノスは、FFによる素直な操縦特性と軽快なハンドリング、コンパクトな車体、意外と使える後席とトランクによる実用性の高さで、派手さはないものの女性ドライバーを中心に人気を獲得。テレビCMの効果もあり、一時は街中でもよく見かける車種のひとつでした。
しかし現在、生産終了時から20年が経った2019年、中古車市場で出回っている個体は1〜2台しかないという希少車に。特に優れたレーシングヒストリーがあるわけでもないサイノスですが、手に入れやすい低価格でスポーツモデルの裾野を広げたという点で、もっと評価されてもいいと感じますが、皆さんはどう思いますか?それでは、また次回の記事でお会いしましょう!
[ライター/守屋健]